「企業の国内投資が伸びない訳」

 
と、標題に書いたが、結論から言うと、2012年度の企業の国内設備投資は5年ぶりに増加している。日本政策投資銀行の「2011・2012・201年度 設備投資計画調査」によると、資本金10億円以上の大企業の2012年度の設備投資は製造業で、対前年比+19.1%、非製造業で+8.6%、全産業で+12.2%(除く、電力+12.5%)となる。

増加の理由は、?東日本大震災の復旧・復興関連 ?エコカー関連 が主のようだ。もっとも、復興関連投資も一巡することから、2013年は再びマイナスに転じよう。

一方で、驚くべきは海外設備投資の増加だ。2012年度は、自動車の海外生産能力増強と、鉱業の資源投資関連で、前年比+31.5%も伸びる。特に自動車生産の海外移転円高が原因だ。1ドル=80円台の為替水準では海外移転は止められないだろう。
企業の国内投資が増えない理由の主な理由は、円高だろう。では、他に理由はないのか?私は、そもそも投資に消極的な経営者が多いことが理由ではないかと思う。
企業の内部留保の推移を見てみよう。そもそも内部留保の定義だが、通常、貸借対照表上の「純資産の部」にある「利益剰余金」を指す。これに、全労連・労働運動総合研究所(労働総研)は、「引当金」「特別法上の準備金」、「資本剰余金」などを足したものを、広義の内部留保とし、資本金10億円以上の大企業が保有する内部留保(連結ベース)が266兆円(2010年度)に達する、としている。

ちょっと古いが、内閣府の調査を見ると、以下のような事が解る。(図3、図4 内閣府 今週の指標 No.988 企業の内部留保の動向 内閣府は、内部留保を利益剰余金としている。

http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2011/0425/988.html

1全産業規模で見ると、資産全体における内部留保の比率は確かに増えているが、手元資金の比率は横ばいなことから、内部留保の一部は、事業活動への投資に向けられている物と推定される。

2一方で、図4を見ると、大企業より中小企業の方が、手元資金比率が高い事が解る。中小企業の方が事業活動へ投資を行っていないと言える。資産サイドで中小企業は手元流動性を高めているのだ。

日本の企業の99%は以上は中小企業である。中小企業が活性化しない限り日本経済の成長はない。
中小企業の手元流動性が高い=投資が活発に行われない理由は以下の通りと推察される。

1大企業が国内に投資しないため、中小企業に波及効果が来ない。
2長引くデフレで内需が縮小し、余剰設備を抱えている。
3家電や携帯電話など、海外からの商品が大量に流入し、国内メーカーの生産そのものが縮小している。
4海外に進出したくても、ノウハウが無い。
ブランディング構築力、高付加価値商品開発能力に欠ける。

ではどうすればいいのか?

1は円高が主原因だろう。円安になれば大企業は国内生産を増やさざるを得ない。円安誘導の為の大胆な金融緩和が必要だろう。2のデフレ対策としても有効だ。
3は、昨今のパナソニックやシャープ、iPhoneSamsungに押されて生産規模を縮小したり、撤退している携帯電話メーカーの現状を見れば分かるように、日本企業の構造的問題だ。同一事業分野で国内競合他社がひしめきあい、自社開発、自社生産、自社販売の垂直統合モデルを貫いてきた結果だ。台湾のホンハイ(鴻海精密工業)などは製造請負会社としてスタートしながら、今や売上10兆円、従業員数100万人の巨大企業だ。アップルなど米企業の製造下請けを一手に進めた結果、日本の家電メーカーを凌駕する規模に成長した。それを知りながら日本企業は自社開発にこだわり続けた。
早々にメーカー同士部品を共通化し、規模を拡大させるか、韓国メーカーなどと提携し、共同開発等に乗り出すべきだった。
今後は、今、日本企業が世界シェアを持っている分野(超小型モーターや機能性繊維等)そして、日本企業が国際競争力を持っている分野、持ちうる分野(省エネ技術、EV、蓄電池、高効率火力発電所原発廃炉技術等)などを戦略的に伸ばしていくしかない。
4と5は中小企業自身の問題だ。これらは、中小企業の自助努力が必須ではあるが、長年内需に頼ってきた為、ノウハウが蓄積されていない。今、民間の知恵が試されている。
大企業と同様に、同一地域、同一産業のグループ化による設備利用率の向上とグループ企業間における付加価値の高い商品開発と、E−Commerceを利用した販路の全国展開、首都圏に集中するクリエーターとの商品のブランディング化推進などが当面やるべきことだろう。

将来的には、新興国需要をどう取り込むかが課題だ。他企業の成功例等から、どのマーケットに進出したらいいのか、政府系金融機関JETRO等の後押しが必要だ。

大企業であれ、中小企業であれ、リスク投資をしなければ、企業の成長はない。グローバル経済とIT革命は、次々と新たなサービスを生み出す。今日の勝者が明日も勝者であり続けられる時代はとうに過ぎた。リスクを取らず、内部留保を積み上げる経営=安定ではない。如何に戦略的分野に投資をし、利益率を高めていくかが、今、最も求められている。

以上