ペルー日本大使館公邸占拠事件12

実はトンネルを掘っているという情報は以前にもあった。現場のS記者がそうした情報を入手。トンネルの入り口を掘っている場所もほぼ特定した。しかし、ポリスラインが公邸の周囲は張られ、厳重な警備網がしかれ、そこへはメディアは一切近づけない。そこで、もし掘っているなら土砂は深夜に運ぶはず、と考え、夜中にカメラマンを張り込ませたりした。確かにトラックらしきものは出入りしているのだが、それが土砂を運んでいるのかどうかまで視認できなかった。残念ながら、裏を取るまでにいたらなかった。




しかし、今回は、実際に突入を検討している特殊部隊の兵士からの情報だ。かなり確度が高いはずだ。それにしても、実際にトンネルを見たわけではないのでおいそれとは記事は書けない。また、もし確認したとして、ペルー政府が奇襲攻撃を仕掛け、突入すると言うことは、人質に大きな被害が出る可能性がある。仮にスクープとして記事を書いたとしたら、MRTAはトンネル掘削を止めようとして、人質を見せしめで殺すかもしれない。ここでまた私はジャーナリストとして、悩みに悩んだ。現場で簡単に人に話せることでもない。それにトンネルからの奇襲作戦はもしかしたら単なるおとりで、実際は地上からの突入が本命作戦かもしれない。



とりあえず、私は、その兵士からかなり詳細なトンネルの見取り図を入手した。驚くべきことにトンネルは一本ではなく、数本、複数の入り口から公邸の地下周辺へ伸びていた。こんなにも沢山のトンネルを掘っているのか?いぶかしんだが、計画は計画なのだろう、と思った。



そんな時私はあるアイデアも思いついた。突入する兵士に小型デジタルビデオカメラを持っていってもらい、突入の瞬間を撮ってもらおう、と。もしその映像が撮れたら、前代未聞、大変な映像になる、と思った。早速アメリカから、小型ビデオカメラを運ばせたが、これが想像より大きなものだった。1997年頃、アメリカで入手できるものはせいぜい小型の弁当箱ぐらいのもので、私がイメージしていたものより、大分大きかった。出来れば兵士のベストの内ポケットに入るくらいのものが最適なのだが、実際に装着すると、脇がぽっこり膨らんでしまい、不自然さはぬぐえない。明らかに何か大きな物体を胸に入れている、と分かってしまうのだ。これには彼も「これでは仲間からばれてしまう。とても、カメラを持ち込むことは無理だ。」と言った。



仲間からばれてしまうのでは作戦の遂行は無理だ。彼を危険にさらすことになる。このアイデアはぽしゃってしまった。



続く