ペルー日本大使館公邸占拠事件11

ある男の事を書こう。彼の名前は、ファハド(仮名)。誇り高き特殊部隊の兵士である。年はまだ30歳くらいだったろうか?若いフィアンセがいた。あるとき彼は、とある場所で、公邸突入の訓練をしている、と明かした。郊外のある場所で、実際に公邸を模した建物を建設し、そこでシュミレーションをしている、というのだ。実際にその訓練風景は、メディアに公開された。テロリストに対するデモンストレーションなのか・・・?それとも・・?



2-3日に一回、彼からは連絡があった。しかし、テロリストと軍のにらみ合いは続く。その間に、交渉役として選ばれたシプリアーニ司教らは毎日、公邸に出向き、MRTA と話し合いはするが、進展はないまま、時間だけが過ぎていった。彼ら交渉役の一挙手一投足を我々は追いかけたが、あまり成果は無かった・・・。



実は、赤十字が人道上の立場から、色々なものを人質に差し入れていた。家族からの手紙だったり、食料だったり、本だったり・・・。その中に娯楽用のギターがあった。そのギターの中には、超小型マイクロフォンが仕込んであったのだ。人質の中には軍や警察幹部がいた。彼らはギターを爪弾くふりをして、ギターのマイクを通して、中の情勢を外に伝えていたのだ。



さらには、軍と警察は同じような集音マイクを塀の外から、公邸の庭に放り込んでいた。様々な音を集めて分析するためである。そうした情報の幾つかを私は入手したが、どれもウラの取れない情報ばかり・・・オンエアするには至らなかった。



あるとき、軍がトンネルを掘っている、と公邸内のMRTAが騒ぎ出した。床下から音がする、というのだ。軍は公邸の近くから大型スピーカーで大音響の音楽などを流していたのだが、それは、トンネル工事の音をごまかすためだったのか!?と思った。いずれにしても、トンネル工事のうわさは現場周辺では出ていた。しかし、工事をしている、と思わせるところにはポリスラインがあって、我々とて入れない。仮に掘っていたとしても、これですべてはおじゃんか・・・と思った。



時はもうすでに4ヶ月、経とうとしていた・・・。中からの情報で、MRTA達は、退屈を紛らわすためなのか、運動不足を解消するためなのか、一階のホールでサッカーゲームに興じているという情報がもたらされた・・・。




続く・・・